②の続きです。
(今野)
例えば、「外食チェーン店」とか「小売店」とか、それから「介護」とか「保育」といったような大企業で、急激に成長しているそれらの業界の企業に広く見られます。これらの企業で、なぜブラック企業、離職率が高い企業が出てくるかと言うと、とても労働集約的な産業だからなんですね。つまり、安く長く働かせれば働かせるほど利益が出るという構図がそのまま当てはまってしまうような業界に、ブラック企業というのは多いということです。
(三宅)
私が気になりますのは、そういう企業・チェーン店などで多いわけでございますけれども、昨今も問題になっている「夜の一人勤務」とかいったこともあるわけなんですけど、そういう企業が、一方でなんですけれども、例えばフェアトレードをやっていたりとか障害者雇用で大変高い雇用率だったりとかして、いわゆるCSR的な部分で企業のイメージアップを図っているような側面もあって。某大手衣料メーカーですね。大変障害者雇用の雇用率が高くて、私も障害者の問題に取り組んでいるものですから、最初は「あっ、こんなに高い率なんだ」と思ったんですけれども、その企業が、ブラック企業の大賞は取ったのかちょっと忘れてしまいましたけれども、必ず名前が出てくるわけなんですよ。そういう「2つの顔がある」と言うか、そんなことも昨今感じてるんですけれども、やっぱりそういうところで世間的にはいいイメージを出したいというところで、でも内実は従業員は大事にしてないということもあるんでしょうか?
(今野)
いやぁ、本当に多いですね。その会社なんかは、その障害者雇用だけではなくて、例えば政府の方で非常によい人事管理をしているということで、調査の対象になったこともあるんです。そういうブラック企業というのは実は多くて、中には最近の「ホワイト企業認定」を、行政がやっておりますけれども、積極的にむしろ取りにいくんですね。あるいはリクナビとかマイナビにも「我が社は非常に画期的な労務管理をしている」とか、あるいは「活躍ができる」とか「残業がない」とか、そういうことを平気で書いています。
で、何でそういうことをブラック企業はやるかと言うと、そのチェック機能ないからなわけです。ですから、世の中には「我々は非常にいい働きやすい会社なんだ」とアピールをして、実は入ってみると「死ぬほど働け」と言われるわけですね。ところが、「死ぬほど働け」と言われて働いている人たちというのは、みんな鬱病になったり辞めてしまったり、あるいは死んでしまったりするわけなんですが、実態というのは世の中に全然見えないままなんです。ですから、どんどん新しく入って、そして病気になる人がたくさん出てくる。しかし今まで、特に私が本を書くまでなんかは、辞めていった人たちはほとんど自己都合退職になってるんです。
(三宅)
あっ、自己都合退職になってるわけですね。
(今野)
ええ。「きつ過ぎてこれ以上続けられない」ということで、自分から辞めてしまっている方が非常に多いんですね。そうすると、「それは結局、甘えじゃないか」とか「やる気がなかったんじゃないか」というふうに、むしろその辞めた人たちがずっと責められるというふうなことが続いていたんです。ですから、表向きには非常にいいことを言ってて、ところが入ってみると「死ぬまで働け」と言われるんだけれども、それは全然伝わってこないし、会社が悪いというふうに見えない。そういうことがずっと続いてきたんだと思います。
(三宅)
それで、この言葉はネットの中で流行り出して、今野さんが一橋大学の大学院生の頃に言わば広めたということで、2013年、「ブラック企業」が流行語大賞を受賞された時に、授賞式に出席をされたということなんですよね。
(今野)
そうですね。「トップ10」ですね、流行語大賞の。流行語大賞の「トップ10」という部門ですね。ここを受賞いたしました。
(三宅)
あっ、「トップ10」ですね。そうですか。そうこうしている内に最近は、「ブラック企業じゃない所の方が少ないんじゃないか」という気がするような労働状況でもあるわけなんですけれども、いわゆる「ホワイト企業」と褒められる所は今ありますか?
(今野)
ブラック企業よりはましだと思う会社は多いですね。ただ、日本の企業はどこに行ってもやっぱり世界的に見ると厳しいんですよね。じゃあ、ブラック企業とその厳しい日本企業の境目はどこなのかということなんですが、日本の昔ながらの企業の場合には、きつくてもそれなりにやっぱり育ててくれたりとか、給料がその分上がったりということがあったんです。そういう企業は今でも割かしあるんだと思ってます。ただ、それだって昔から過労死を出したりして、とてもじゃないけれども「いい企業」だとは言いにくかったわけです。ブラック企業というのはその上ですね。「厳しく使う上に見返りが全然ない」という企業になってくるわけです。
③に続く。