民放テレビ局の政治部総理番記者の水谷真理は、官邸に向かって急いでいた。総理番と言っても、まだ配属されたばかりなので、補佐役であるサブだ。
最近は経費削減でハイヤーもないので、タクシーに飛び乗ったものの、なぜか、赤信号にやたらつかまる。イライラが募るが仕方ない。
急に決まった総理の会見は、午後3時から。時計の針を見ると、午後2時半。
虎ノ門の交差点で事故があったようだ。黒塗りのハイヤーが止まり、ものものしい雰囲気だ。こっちも取材したいが、今は官邸に早く向かわないと。とりあえず、デスクに情報だけ入れる。
経済指標の発表、それに関連して予定されていた増税の判断についてだろうとは思うが、予定では明日だった。なぜだか嫌な胸騒ぎがする。
普段は国会近くの記者会館にいることが多い水谷だが、運悪く、今日は取材で外に出ていた。
明らかに機嫌悪そうな平河(与党民自党)キャップの早川の急な電話に、「自分が命じた取材のくせに」と心の中で毒づくが、「大キャップ」様に言えるはずもない。
ああ、情報番組のディレクターの方がずっとよかったと水谷は始終家族に愚痴をこぼしているが
会社員である以上、人事異動には逆らえない。
テレビ局では、「記者採用」を別に設けている社もあるが、水谷の会社は違った。
そうこうするしているうちに、何とか時間前に、官邸に着いた。(②に続く)
注:この小説はフィクションであり、登場する会社、人物などは全て架空のものであることを御承知おきください。