朝10時か・・・。
もう、時間が遅いので、加藤に返信するのは控えて、水谷はそのまま死んだように寝た。
翌朝、10時。水谷真理は、約束通り、官邸内の加藤の部屋を訪れた。首相補佐官室は、想像するほど贅沢なものではなく、議員会館の部屋の方が広いぐらいだ。しかし、やたら、散らかっているので、余計狭く見える。ここばかりは、新婚の奥さんに片付けてはもらえないようだ(笑)
「入って、入って」加藤に促され、部屋に入り、ソファーに腰を下ろす。
「昨日は、メールに気がつかずにすみませんでした」と水谷はまず詫びた。
「いや、こっちこそ。急に呼び出してごめん」
やけに、今日は丁寧だ。怪しい。何を頼まれるんだろうか?
「いやね。君の今日の質問見たけどさ、城田総裁の部分、あれやめてもらえるかな。ほら、本人も容態がまだ安定していないしさ、触れないほうがいいだと思うんだよね。あまり、国民に余計な心配かけなほうがいいしさ」
株式市場は、すでに、「城田総裁の事故」を受けて、全面安となっていた。金融緩和の司令塔がいなくなったのだから、当然と言えば当然ともいえる。
解散総選挙をしようというこの時期に、政府与党としては、計算外の出来事で、どうもそうとう困っているようだ。
「私が聞かなくても、誰かが聞くんではないですか?」と呆れて、水谷は軽くいなした。
「いや、君以外は了承してくれたから」
「でも、誰も触れないのもへんですよ」それでも水谷は食い下がった。
「とにかく、おたくのデスクにも言っておいたから、よろしく。じゃ」
言いたいことだけ言われて、補佐官室を追い出された。
勝手なものである。この政権は、とにかく、株価を高い水準に保っておくことしか頭にないようだ。
なにが、アユノミクスだ、と心の中で毒づく。
携帯を見たら、さっそくデスクから着歴が残っていた。
「水谷包囲網」である。拒否をしたら、質問者からはずされるんだろう。
⑪に続く。
注;この小説はノンフィクションであり、登場する会社、人物などは全て架空のものであることを御承知おきください