午後8時東京駅のプラットホーム。
静岡の地元に戻る菅谷官房長官待ちだ。秘書官からグリーン車の座席は聞いてある。といっても水谷たち番記者は当然ながら自由席。乗りこむところでぶら下がられる(インタビューできる)かどうか。
静岡6区は今回野党が統一候補をぶつけきたたが、今のところ優勢は揺るがないようで、本人はいたって余裕だ。それより、やはり、現有議席の維持で頭が一杯のようだ。
3分前になり、SPと共に菅谷が姿を現した。「お、皆つきあってくれるの?明日はまた東京だよ」
軽口を叩きながら、すぐに車両に乗りこんでしまった。まったく、取材にならず。
まあ、これで、熱海まで一休みか。といっても、ひかり号なので僅か40分だ。
皆で自由席に移動したが、乗りこむと、先に座っていた一般客はぎょっとした様子。それはそうだろう。サラリーマンには見えない背広やスーツの若者軍団がパソコンやカメラを持って、せわしなく乗りこんできたのだから。皆、黙って、カタカタとパソコンを打っている。今の僅かな一言でもデスクに送らなければいけないのだ。くだらないと思うが仕方ない。
8時40分に熱海着。菅谷は駅近くで後援会幹部と会合らしい。この時間だから、おそらく、かかっても1時間程度だろう。
迎えにきた秘書にこのあとの予定を聞く。さすがに、今日はこの後は自宅とのこと。私たちも、店を出たところで菅谷をつかまえて、今日の仕事は終了。安ホテルに移動だ。
明日は荒川区になっている。注目の東京14区だ。ここは激戦区で、民自党と民衆党が選挙のたびごとに議席を奪い合っている。しかも、この間、醜聞で大臣辞任で追い込まれた議員の選挙区であり、ここを落とすわけにはいかないのだろう。
一体、選挙期間中、何か所応援に行くのだろうか。政治家とは体力勝負だなと思うが、それにつきあう我々記者も大変だ。
菅谷はちょうど1時間ほどで出てきたが、結局何一つ聞き出せなかった。14区は落とせない、の一言だけ。さっさと車に乗りこんで去ってしまった。
さあ、明日から死のロードだ!
第1章終わり。第2章へ続く。
注;この小説はノンフィクションであり、登場する会社、人物などは全て架空のものであることを御承知おきください